前々から気になってて読みたかった漫画"ヒストリエ"を単行本で全11巻読みました!
世界史の授業では語られない、紀元前のギリシャ周りのお話が丁寧に描かれていて、その世界にのめりこめました。前置きはこれくらいにして色々魅力を語っていきます!
▶良かったセリフ
第5巻 43話 94ページ
奴隷として町を離れたものの脅威的な運&頭の良さを発揮し、育ちの故郷へ帰ってきたエウメネス。
彼が再度旅立つ前、義兄であったヒエロニュモスが実父の仇であるヘカタイオスに従事して生きていることへの不満をぶち明けたシーン。
このエウメネスの回答、とても素敵ですね。
いつの時代も、人間みんな不満や憎しみ,悲しみを抱えて生きています。程度の差はあれどネガティブな要素が生活にない人なんていません。なんでも完ぺきにはいきません。
エウメネスは幼少期に壮絶な経緯で上流階級から奴隷に転落して、それはそれは悲惨な目に遭っています。ましてや自身を不幸にした最大の原因であるヘカタイオスに対してこのような感情でいられるのです。
そして「楽しく暮らすことはできるさ」という言葉。彼自身救われた村で"楽しく暮らす"ということができたからこのようなことが言えたのでしょう。奴隷として自由を奪われ幾度となく生命の危機を脅かされても、この言葉を言える人生観がかっこいいです。
壮絶な苦労があっても憎しみを表に出さない。エウメネスの利口さが出ています。以前この町を出る直前に叫んだあの言葉と対になっているようで、彼の著しい成長を窺えます。
この回は回想編と導入の部分がちょうど終わる、まさしく物語の分岐点ともなる回です。非常によいまとめ方だったと思います。
他にもいいシーンはありましたが、このシーンだけは初見で心に残りました。
▶表情。残酷な描写
筆者は高校時代バイトしていた時、仲良かった社員の人が大絶賛していた寄生獣で岩明均さんの作品に初めて触れました。なお寄生獣は面白すぎて高1のクラスのみんなで回し読みしました。
この作者は表情の書き分けが世界で1番上手いです。
登場して間もないキャラでもコイツは強い、コイツは実はとても悪いヤツ...といった特徴が表情から読み取れます。そしてセリフでは感情をハッキリと表現せずとも、表情で秘めているモノを表現できています。
セリフどうこうはもちろん、キャラクターの表情を追うだけで漫画を楽しめます。セリフが無いシーンでもキャラの表情を見て感情を想像することで、物語の世界に心をぐっと近づかせられます。
エウメネスの表情がだんだんと凛々しくなっていく進化も上手く描かれています。エウメネスの母親が惨殺される直前の数コマに渡る表情変化も素晴らしいです。
そして定期的に登場する残虐なシーン。
戦争が題材でもあるので登場は必然的ですが、それ以外での拷問や報復での生々しい描写がリアリティを増幅させます。
奴隷は主人を恨んでいるということは当たり前ですが、その恨みの晴らし方が非常に恐ろしく表現されています。奴隷以外も階級制度に付きまとう暗い面が丁寧に描写されていて、それが作中で幾度となくカギとなっています。
スキタイの民族性,売られた奴隷たちの船上反撃,エウリュディケの政略結婚など。
▶リアルな世界史と想像力豊かな構想
伝記と創造を組み合わせたストーリーですが、リアリティとファンタジー要素を上手く混ぜ合わせています。アレクサンドロスの二重人格などは個性を与える上で良いアクセントを出せています。その一方強い国家にいながらも、やっぱり強いアテネの海軍にボコられるなど史実に基づいた繁栄の代償も描かれています。
まだ一周しか読んでいませんが、この漫画は何度も読んで良さがどんどん出てくるものだと思っています。キャラの名前や過去編との照らし合わせなど、複数回読むことでよりキャラの感情を理解しやすくなります。
これから何度か読み返します。そしてまた感想を書いていきたいです。
他の岩明先生の漫画も読もうかな。
▶一方でキャラクターの名前の覚えにくさも特徴です。
登場人物や地名,民族名などは全てカタカナなので、把握するのが大変です。新キャラの名前が続々出てくる展開では、誰が誰だか顔と名前が一致しないことが多々ありました。時には主要キャラの名前でさえもあやふやになります。
流石にアレクサンドロスやビザンティオンなど著名な名はすぐ覚えられました。また名前を忘れたらその都度、前の回や巻を読み返して確認したりする面白さはありました!
逆に国語や漢字のありがたみを感じました。ヒストリエに限らず、漫画を外国語にしたときにキャラの名前覚えるのすごく大変そう…漢字ってほんと素晴らしいわぁ(恍惚)
▶そして筆者は前にギリシャ行ったのですが、行く前にヒストリエを読んでおけばと激しく後悔しております。。。
元々世界史でこの辺の歴史が好きでしたが、ヨーロッパ旅でギリシャに訪れたときには疲れすぎてて歴史散策に頭が回りませんでした…ポンペイも行けなかったりとつくづくこの辺の時代の関連物に縁がない()
そんなわけで、アテネやナポリに行く方は是非事前に読んだ方がいいです!
筆者はまたいずれアテネへ、そして念願のポンペイに行くと思います。今はお金貯めなくっちゃ!
↑当時は若く、ギリシャと言えばエーゲ海の島々ばかりに気を取られていました…
ビザンティオン(のちのコンスタンティノープル・現イスタンブール)も本当に素晴らしかったです!あのボスポラス海峡をエウメネスも渡ったとか胸熱すぎます!!!